「あれ、わたしこの1年何やってたんだろう」
社会人二年目、ビルとビルの間にある小さな公園の、たった1本の桜の木を見てドキリとした。
不慣れな社会人生活を、ただバタバタと空回りをしてきたことに気づいたときだった。
今から数年前(歳がばれないようにふせておこう)、下町に佇む梱包資材会社の営業事務をしていた。特にこの会社に夢があったわけではない。あまり積極的に活動をしているとはいえなかった就職活動のときに、自分のことをふんわり思ったことが原因で、家から近いこの会社にしたのだ。
「やっぱりわたしはイラストが書きたい。」
小さい頃から、漫画を描くのが好きで、あまり絵はうまくなかったけれども、学校の人たちを登場させたエッセイギャグ漫画とかそういうのを書いて遊んでいた。そのまま大人になって、大学の講義のメモは常に落書きだらけだった。
とは言っても、親に土下座までして行かせてもらった大学なので、形だけでもちゃんと社会人をして親を安心させてから、自分のやりたいことを小さくやっていけたらいいなぁと思い、一年が経つ。(今思うととても真面目だ。たぶんいい子だったんだと思う。)
あの桜を見て、この一年での資金を使ってイラストレーター教室に通うことに決めた。
同じイラストレーターを目指す友人に相談をしてみたら、自分にも通えるような教室を教えてもらえた。少し資金は高いけれども、現役で活躍する多数のイラストレーターさんに直接指導をしていただいたり、お話を聞けるという教室だ。
少し、人生が楽しくなった。
20代の前半は、小学生のときに描いていた自分の理想とはかけ離れていて、どちらかというと「こんなはずじゃなかった」という気持ちが多かった。
突如思い立って、そのへんの紙にざーっと書き出したのは、「人生計画書」。簡単に、「26歳コンペ入賞 28歳イラストの仕事で食べてる」というような感じに。
なんの根拠もない計画書なのに、見えなかった未来が急に輝いてみえて、「なんだ人生楽しいじゃん!」と興奮し、さっそく、特にネタもないのにイラストエッセイ漫画を出版社に持ち込んだりもした。我ながら単純な性格だ。
ここまでで、まだキャンプに出会っていない。
話は逸れるけど、わたしは大人になるまで一度もキャンプをしたことがなかった。
親が時々、ピクニックやBBQに連れてってくれる程度だ。漫画やアニメやゲーム好きなわたしが、もっぱら外で寝るなんて考えられない。
とある日、会社の人にキャンプに誘われたときは、正直「げっ」と、なった。
キャンプって家族のため(もっとも子供の)だと思っていたし、大人だけで(しかも少人数)行って楽しいのかなぁ、など半信半疑だったけどなんとなく断るのも野暮だったので、行ってみることにした。
実際、はじめてのキャンプは予想を上回るものだった。
なぜかそのキャンプ場は子供が全くおらず、それぞれが大人のためのキャンプを楽しんでいるようだし、興奮して隣のサイトの夫婦に話しかけて、テントのなかをのぞかせてもらったら見たことないけれども便利そうなかっこいいアイテムがいっぱい。
「なんだこの秘密基地感は!!すごい!!」とツールームテントを駆け回った。
夜は、たまたま流星群の日だったので、今まで見たことのない数の流星を目の当たりにした。嘘でしょ!?ってくらい星が頭上をびゅんびゅんと降っていく。
翌日、朝モヤのなかリラックスチェアに座ってコーヒーを飲む隣のサイトの夫婦をうらやましく思ったのを覚えている。
それがわたしの初キャンプの思い出。
なぜか強烈だったらしく、仕事中に少しずつキャンプのことを調べ、
キャンプ場や道具や、世界の自然の風景の写真を見ては悶えた。
あんなに夢中だったイラストレーターの世界を一瞬忘れるほどのめり込んだのだ。
そんななか
とあるブログから、とてもかわいいテントを見つけて、そのテントのとりこになる。
軽そうで、広そうで今までのテントとは一味違う。わたしでも簡単に設営できて、なんならクルマがなくてもキャンプできそうだと夢が膨らんだ。
大切なイラスト教室の時間、わたしはずっとそのテントのことで頭がいっぱいだった。
いてもたってもいられなくなって、イラストレーターの先生の話すことも頭そっちのけに、もぞもぞと机の下で隠した携帯から、わたしはそのテントを購入していた。
まるで恋のように何かにとても夢中になったのは、これがはじめてだったのかもしれない。
その後は、あっというまだった。
テントが手に入ったら、「今度は仲間だ!でも一人でもキャンプ行きたいから、ソロキャンプの集団みたいな感じで一緒にキャンプしてくれる仲間が欲しい!」と、ブログやコミュニティを作った。
「森ガールが流行ってるから、キャンプにもガール的な名前があれば流行るかも」と思って名付けたのが「女子キャンプ」。
女性だけでキャンプをする人はその時代はほとんどいなく、
キャンプに対する情報も、どちらかというと男性目線が多かったように思える。
キャンプに無我夢中になっていたけど、肝心のイラスト教室は、移転してはいたものの、将来に悩みつつ細々と通い続けていた。
そんなとき、前の教室のイラストレーターの先生の一言をふと思い出した。
「ただのイラストレーターは五万といる。上手いからいいわけじゃない。あなたにしか書けないものを持つことが大事だ。どんな些細なことでも、あなたが好きなことでも。」
そのときは、たった一回やっただけのキャンプを思い浮かべ、すぐ頭から消去した。
「いやいや、たった一回、人の道具でやっただけで好きとか言えないしなぁ」
その半年後、わたしは自分で道具を持って、人を集めてキャンプをしていた。
はっ、と思う。ずっと書きたかったネタがなかったわたしに、何かが降ってきた。
「わたしのキャンプの経験を、エッセイ漫画にしよう。」
そこからは、見えた道にまっすぐ向かっていった。
いつの間にか、キャンプも仕事になって、オリジナルのテントも販売させてもらって、夢だったエッセイ漫画も書かせてもらっている。相変わらず絵は下手だけど。
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ものすごく長くなったけれども、これがわたしの人生の分岐点のお話。
どうしてキャンプだったのかって?その魅力?どうやって仕事になったの?
それは今後お話していこうと思います。短い時間ですがお付き合いくださいませ。