自転車キャンプツーリングの魅力
僕は高校生の夏休み、初めて自転車にキャンプ用品を積んで日本中をツーリングした。
自転車の速度は当然車より遅い。大体時速10〜20km/h程度。そこには車では一瞬に通り過ぎて見えない風景も見えたりする。風を感じたり匂いを感じたりもできる。
走りながら気になるところがあれば、ふらっと立ち寄ることができるし、気に入ったところがあればキャンプも可能だ(今はどこでもというのは難しくなってきたが)。その辺の茂みや橋の下でこそっとテントを張ることもある。雄大な自然の中で森や海岸に一人という場合もある。
観光地やガイドブックに載っていないところにこそ素晴らしい風景やロケーションがあったりするのだ。
自転車キャンプツーリングを始めた理由
僕は幼い頃から自転車が好きだった。
きっかけは映画「ET」。少年がBMXで荒野を走りジャンプするシーンにあこがれた。主人公の乗っていたBMXは日本のクワハラというブランドで、その自転車が映画と同時に日本で売り出されることになった。
まだ小学5年生だった僕は100円玉貯金とお年玉で「ET自転車」を購入した。それからは放課後、毎日のように野山を駆け回っていた。
高校生の時、初めてマウンテンバイクが日本に紹介された。早速、手に入れて富士山を担いで登頂し山頂からダウンヒルを楽しんだ。そして夏休みなどはキャンプ用品を積んで日本中をツーリングした。(※現在、富士山自転車走行は禁止されています)
大変なことも多かったが出合う人々に助けられたり、素晴らしい風景を見つけた。「キャンプツーリングっていいなあ~」とますますその魅力にとりつかれていった。
そして海外も走ってみたい気持ちが自然に高まり、大学の卒業旅行でニュージーランドを2週間走った。ガイドブックでは収まり切れない大自然!本による知識と体感することの違い、人との出会い、すべてが楽しかった。
自転車キャンプツーリングの持ち物
「自転車のツーリングはどんな物を用意して何をもっていけばいいの?」とよく聞かれるが、僕自身の最初のキャンプ道具はホームセンターで3000円の安物テント、家にあったフライパン、鍋を持ち出し、登山用ザックに荷物を詰め込み走った。
しかし2日で肩がめちゃめちゃ痛くなった。この荷物の運搬方法は間違っていたことを身をもって体感した(笑)
そしてツーリングの回数を重ねるごとに軽くてコンパクトになるものを選びそれなりの装備をそろえていった。
今ではウルトラライト系のギアはたくさん出回っているのでバイクパッキングという軽量なキャンプツーリングが可能だが、当時は振分け式のサイドバック4つ、フロントバック、リヤキャリアの上にさらに荷物・・・ヘビーウエイトなスタイルが主流だった。
海外を走るとなるとギアへのこだわりも出てきた。次は自分が選んだギアと選択したポイントです。
テント
防犯上、荷物を中に入れるのでソロ用ではなく少し大きめ。どんな環境でも立てられる自立式、雨の日でも調理できるように前室がついたもの。暑い時のために、開放性や通気性がいいもの、短編方向の入り口ではなく長編方向に入り口のあるもの(前後2か所出入り口がベスト)を選んだ。
当初、評価が高かったヨーレイカのツーリングテントをアメリカ横断では使用した。しかし長期で使っていると防水性の低下もさることながら、ファスナーがつぶれてしまった。閉めても開いていくトラブルである。
一番の原因は出入り口のファスナーのアールがきついことだった。アールがきついとファスナーに負担がかかり摩耗しやすい。使用頻度が多いと高級テントでも1年持たないこともある。一番理想的なのはダンロップのツーリングテントなどのようにT型のもの(直線にファスナーが配置されている)。これが一番長持ちする。
調理用バーナー
絶対条件としてはガソリンが使用できるタイプ。
理由は簡単で全世界どこでも車が走っているので、どんな田舎であろうと、どこでもガソリンが入手可能だから。またガスバーナータイプはODガス缶を飛行機に乗せられないのと、どこででも買うことはできないため海外では使いづらい。
僕が選んだバーナーはオーストラリア横断ではSIGGというメーカーのファイアージェット(現在廃番)。アメリカ横断以降はずっとMSRウィスパーライトインターナショナルを使っている。メンテナンスが楽で非常にパワフル。ケロシン、ホワイトガソリン、自動車用ガソリン、ジェット燃料まで使える(笑) しかし火力調整がほとんどできないので米を炊くときに毎回苦労した。
当時イランでは国民すべてにケロシン(灯油)が配給されていたのでよく無料で分けてもらった。
コッヘル
コッヘルは軽さを重視してチタンクッカーを選んだ。エバニューの3サイズのコッヘルをスタッキングできて蓋が小さいフライパンになるもの。しかしチタンは熱伝導率がいいためすぐに冷めてしまうのが冬のキャンプではつらかった。
キャリア、パニアバック、タイヤ
自転車に荷物を積むためのキャリアはチューブス(シンプルな作りで壊れない)、サイドバックはオリトリーブ(完全防水のパニアバック)、タイヤはシュワルベのマラソンプラス(荷物をたくさん積んでいても1万キロ以上の走行できる耐久性を誇る)。どれもドイツブランドで世界中のサイクリストから支持を得ている。
品質、耐久性、使い勝手すべてパーフェクト!これを選べば間違いはない。
海外の過酷キャンプ地を紹介!
それでは最後にこれまでに海外キャンプツーリングでテントを張った、特選の過酷キャンプ地をお届けします~
★オーストラリア★
オーストラリア ナラボー平原。砂漠地帯でのブッシュキャンプ。アリにテントを食いちぎられる。
赤土の大地。360度地平線。どこにテントを張っても誰にも文句は言われそうにないが、文句を言うヤツが一人いた、いや数千匹いた。
テントを張ったところがたまたまアリの巣の上で、朝起きたらテントの底面は穴だらけになっていた。
このオーストラリアにはかなり凶暴なアリが生息しており、危うく体までやられるところだった。それからはどんな場所でもテントを張る前に慎重に地面をチェックするようにした。
他にも、アボリジニ居住区でテントを張っていたら夜中に車が止まり、人がおりてきたことがあった。
英語ではない言葉(多分アボリジニ語)で数人叫んでいる。何事もなかったがブッシュキャンプでは野生動物より人の方が怖い場合もある・・・
ブッシュキャンプ(野営)するときは人家の敷地内か、人から全く見えない場所でテントを張ることを心がけた。
敷地内は管理されているのでいざと言う時助けを呼べる。よくガソリンスタンドでテントを張らせてもらった。
★アメリカの国立公園★
「テントの中で絶対に食事をしないでください。」
国立公園のキャンプ場の受付で厳しく言われた。何やら一度テントの中で食事をするとテントに匂いが付いて夜にテントの上から襲われる可能性があるらしい。「そんなおおげさやな~大丈夫やろ!」と思っていたが、テントサイトの木にはクマの爪の跡だらけ・・・
「このキャンプ場大丈夫なのか?」
食べ物以外にも、においのあるもの(歯磨き粉も)は必ず、テントから離れた常設のフードボックス(鉄製のロッカー)に入れるか、ハングアップといって食料を袋の中に入れてまとめて5m以上の木に吊るすことを徹底しなければいけない。
この国立公園キャンプ場はシーズンオフだったため、僕以外キャンパーがいなくてかなり心細かった。
食事後、フードボックスに食料を入れに行った。人のいない森の道を500mぐらい進んでいたとき、フードボックスがあまりにも遠くに感じ、後ろから熊が着いてくるんじゃないか?後ろから襲われるんじゃないか?と思った。ビクビク後ろを何度も振り返りながらフードボックスまで食料を持っていった。国立公園のキャンプ場は人の多いシーズンにインしましょう・・・。
★イラン★
イランの草原でのキャンプ中の砂嵐。
草原では風を遮るものがほとんどないため、草原ではできる限り木の陰や廃墟の横、風が遮れるところにテントを張っていたが、“何もない”ところでテントを張らなければいけないことも多かった。
イランの草原でキャンプをしていたら夜中に砂嵐がおこり、砂がテントをたたきつけ朝まで一睡もできない。明るくなってテント内を見回してみると砂だらけ。チャックも締まっているのに・・・
どうやらチャックの隙間から細かい砂が入ったようだ。
★スペイン★
田舎町の静かな公園で夕暮れにこっそりキャンプをしていた。
夜にパーティーから帰る途中の学生が20名以上、テントに気付き遠くからヒソヒソ話を始めた。しばらくたって会話がなくなったなと思ったら、なんと公園に実っていたオレンジをこちらに向かって投げだした。
テントの中にこもっていた僕は大慌てで外に出た。彼らにとってはゲーム感覚だろうが、オレンジがテントに直撃すると壊れるし大変だ。日本語で怒鳴りにらみつけると面白がってさらにエスカレート・・・
雪合戦のように固いオレンジが飛んでくる。これはヤバイ・・・・
そこで作戦を思いついた。
足にオレンジが当たったフリをして「うっ、いって~~~~!」と思い切り叫んだ。すると学生たちは「これはマズイ」という雰囲気になり静まり返り、オレンジを投げるのをやめた。
そうこうしているうちに警察が来て、学生は蜘蛛の子を散らす勢いで逃げて行った。
当然キャンプ禁止の公園だったので警察にずいぶん怒られ注意を受けたが、その夜は警察の詰め所に泊めてもらった・・・
★トルコ★
20年ぶりの大寒波に当たってしまった真冬のトルコ。
道路以外の平原地帯は雪に覆われて真っ白。それでも先に進まないといけないのが自転車キャンプツーリング。
キャンプ地に困り、ガソリンスタンドの敷地内でよく張らせてもらった。敷地内といっても空き地だが建物の影だと風も弱いし、何かあったときは助けを求められるので助かった。
ある日の朝-20度まで気温が下った。ペットボトルの水は完全なクリアアイスになる。コンタクトの保存液まで凍るのだ。凍っては困るものは寝るときに一緒に寝袋の中に入れておいた。
テントを撤収する時、テントポールのジョイント部分も凍り付いて抜くことができない。
仕方なく引っ張りながら息を吹きかけて溶かそうと思ったが、唇がポールに触れてしまいそのまま凍って引っ付いてしまった。無理やり引っ張ったら唇の皮がめくれて出血・・・雪の上に赤い水玉を描いてしまった。
毎日こんな雪の上でテントを張っていると、通りがかりの人が心配して「ガレージの中や物置小屋で寝なさい」と場所を提供してくれることも多い。しかし実はテントのように狭い空間の方が熱がこもりやすいし暖かく眠れるのだ。グランドシートの下も雪でフカフカで、慣れてしまうと実は厳冬期のテント生活は快適だったのだ。
おわりに
さて、いかがだったでしょうか?こんな少し特殊なキャンプ体験をしてきましたが、やっぱりキャンプ場でキャンプするのが安心ですね~(笑)